10周年記念コンサート&ケーリーを終えて

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10周年記念コンサート&ケーリーを終えて

2021年11月26日 スペシャルケーリー ライヴ 0

10周年記念コンサート&ケーリーが先週満員御礼で無事終了致しました。
まずはお越し頂いた皆様、配信をご覧頂いた皆様、そして、ご協力頂いた関係者の皆様、ありがとうございました。

この半年間、膨大な時間とエネルギーをかけて準備してきただけに、終わってからも数日間バーニングアウト状態で、あっという間に一週間以上が過ぎてしまいました。
ほとんどソロリサイタルか、業者に頼まずにやった自分達の結婚式に匹敵するくらいの準備、情報量でしたが、それぞれの得意分野で助けまくってくれたバンドメンバーと、舞台監督・演出・ダンサーマネージメント・Webデザイン・制作まで八面六臂で動いて下さった頼もしきブレーンでダンサーの寺町靖子さん、自発的にお手伝い頂いたダンサーの皆さん、さらには今回文化庁のArt for the Futureの採択が間に合わず、結果的に準備が後手後手になり、多大なご迷惑をかけてしまった音響の原田豊光さん、配信の増田久未さんの強力なサポートのお陰で何とか形になり、ホッとしております。
当日はアイルランド大使もお越し下さり、スピーチと歌をご披露頂きました。そして、何より一年半ぶりのケーリーにダンサーさん達の喜びを爆発させながら踊る姿を見て、最初のセットから既に感無量、胸に込み上げるものがありました。

©︎Mizuho Fukahori

今回いくつか新しい試みがありました。

<新しい試み>

1. オンラインプログラム

アイリッシュ音楽のライヴのMCって結構難しくて、曲の名前はやたら多いけどそれを挙げてもよくわからない位曲名は適当なものが多いですし、細かい話をし始めると冗長になってライヴのテンポが悪くなります。かと言って全く触れないと曲の解説をして欲しいという声も出てきます。お客様がアイリッシュ音楽をよく知っているかどうかにかなり幅があるのでそれによっても変える必要があり、全体としてバランスを取るのはとても難しいのです。
プログラムを配るとなると印刷でまたお金と手間がかかりますし、それを持ち運んで配ったり、お客さんの荷物になったりとあまりスマートではない。ということで今回はオンラインプログラムを 用意し、QRコードを読み込んでそれぞれのスマートフォンでご覧頂き、細かい話はそちらで説明、MCは少なめにという方法を試みました。これならば配信をご覧頂く方にもシェアできるというメリットもありました。

こちらがそのオンラインプログラムです。
試みとしては小さな1つですが、他の話をする時にご覧頂いた方が早いものもあるかと思い、先に挙げました。

©︎Mizuho Fukahori

2. 演出、選曲、構成

従来演奏は演奏、ダンスはダンスと分かれることが多かったものを、演奏の途中からダンスが入ってくる形メインに変更してみました。その演奏の部分ではソロや楽器ごとの見せ場をつくって、セットごとのキャラをはっきりつくりました。これもいつもユニゾンで演奏するケーリーバンドには新鮮なことでした。
また、ソロダンスの伴奏曲をダンサーさんのリクエストで決めました。全ての曲でリクエストがあった訳ではないですが、できるだけ希望の曲を出して欲しいとお願いして、その曲で伴奏しました。入退場の仕方など演出面でもダンサーさんと相談しながら決め、ダンサーさん達と一緒に舞台をつくっていきました。これまでの関係性があったからこその試みでした。

©︎Mizuho Fukahori

3. 歌もの、新曲書き下ろし

権藤英美里さんのボーカルで歌ものにも初挑戦しました。スコティッシュのとても良い雰囲気の曲で、編曲も権藤英美里さんによるものです。
また、スローチューンについても、このケーリーバンドはクラシック経験者が多く、ユニゾンで何かをやるよりももっと複雑な構成でスケールの大きなものが合うのではないかと思い、一曲書き下ろしました。
どちらもかなり難易度が上がり、リハーサルが充分とは言い難かったですが、サウンドは想像以上に良い感触で、バンドの持つ独自の魅力が活き、評判もとても良かったので、回数を重ねてより良いものをつくっていければと思っています。

©︎Mizuho Fukahori

4. 場所、衣装

場所は寺町さんのかねてよりの念願の場所、銀座ライオンクラシックホール。1934年に造られた歴史ある建物で、日本最古のビアホールでもあります。下見の時からテンションが上がる程の趣深さで、改めて場所の持つパワーは大きいなと思わされました。
そして、これだけキャラクターの強い箱になると、今までのモダンな衣装は合わないだろうという話になり、文化庁の助成金を当てに(まだ採択の決定が出ていませんが)、最近音楽以上に服作りに没頭している我が妻豊田まりに女性陣の衣装を依頼。グリーンとブラウンをテーマカラーにし、レトロクラシック調な建物に合うテイストを演出しました。
この彩りの良さは写真をご覧頂ければおわかりになるかと思いますが(写真として撮るのは照明の問題で結構難しい場所だったそうで、カメラマンの深堀瑞穂さんの功績でこんなにも美しい写真になっています)、こういう場所で、出演者が場所に合わせて衣装を身につけたり、参加者も音楽やダンスと共に、自らの服装選びを楽しんでみたりというのは、これまで定例ケーリーをやってきたオリンピックセンターではちょっと不可能な新しい楽しみ方の一つになるのかなと思います。

©︎Mizuho Fukahori

そして、公演を終えていくつか気づいたこともありました。

<新たな気付き>

1. 初めての方々や配信の視聴者からの高評価

アイリッシュダンスやケーリーを見たことがなかった方々からの評価が想像以上に高く、これは嬉しい驚きでした。「ケーリーってこんなに色んなダンスや音楽が楽しめる場なんですね」という声もあったので、それについては「本来のケーリーがセットダンスをひたすら3時間くらい踊る場で、今回の公演はちょっと特別な形です」とお伝えしましたが、3時間の通常のケーリーを初めての方がひたすらご覧になったり、配信でその様子を見たりというのは流石に引いてしまったり、途中で飽きてしまったり、楽しみとしては欠ける部分があると思います。セットダンスはやはり本来踊って楽しむものであって、見せるダンス、見て楽しむダンスではないからです。そこに色んなダンスをショーケースとして見せたり、演奏を楽しむ部分があったり、初心者が参加できるダンスがあったりとバリエーションが増えること、そして、それらを少しでも楽しんでもらえるように演出して魅せるという意識が入るだけででただ見て聴いているだけの方々にもずっと入りやすく、楽しめるものになると、今まで以上に確信しました。
今回の出演ダンサーでもあり、セットダンスケーリー常連の城拓さんからは「初心者向けのツーハンドダンスがあると全員が参加できる一体感があるし、一回のケーリーで組めるセットダンスのパートナーの数は限られているけれど、パートナーがどんどんチェンジしていくツーハンドダンスならば多くの人と交流できて嬉しい、是非定例ケーリーにも組み込んで欲しい」という声も頂きました。今後普段の定例ケーリーの在り方も今一度設計段階から見直しを考えています。

©︎Mizuho Fukahori

2. ステップダンスのレベルアップ

今回シャン・ノース、オールドスタイル、モダンスタイルと様々な種類のソロダンスを出演ダンサーの皆さんにご披露頂きましたが、以前より明らかにダンスのレベルが上がってきているように伴奏をしていて感じました。モダンについては若手の素晴らしいダンサーが次々と台頭してきていることは数年前から把握していましたし、こちらはちょっと活動の形態自体が特殊なのでこの話題から切り離しますが、大人になってからシャン・ノースやオールドスタイルのアイリッシュ・ダンスに出会い、普段普通にお仕事をされながら、週末に練習をしてといったスタイルで趣味として長年踊られてきた方々のダンスが、総じてコロナ前よりもレベルアップされているように感じられたのです。これは新型コロナウィルスのパンデミックの思わぬ副産物と言っても良いかと思うのですが、この1年半グループで踊るセットダンスを全く踊ることができなかったために、家でコツコツステップを磨くという時間がこれまでよりもずっと増えて、結果大幅にレベルアップされたのではないかと推測しています。中にはステップからリズムやテンポ感が感じられたり、やりたいことがはっきり伝わってきたり、ステップの音で遊びを仕掛けてきてそれに絡む形で伴奏を即興的に変えたくなるようなケースもあったりして、伴奏していて楽しくなる瞬間がたくさんありました。このことが前述の見ているだけの方々を楽しませる要因の1つとなったことは間違いありません。

©︎Mizuho Fukahori

<今後の展望>

ケーリーバンドを立ち上げてからのこの10年は、より踊りやすいリズム、グルーヴをつくることに明け暮れ、伴奏できるセットのレパートリーを増やし、現地のケーリーについての研究を重ね、コンペティションにも参加しましたが、言ってみればよりアイルランド本国の形に近づけるために試行錯誤した10年でした。
しかし、アイルランドと日本ではダンスの土壌も認知度も環境も当然違います。長い間それは不利な条件であると考えていましたが、日本のケーリーでは若者の層がセットダンスに夢中になって踊っているという現地にはない良さも既に生まれています。今回の公演でのたくさんの気付きやここ数年の変化を鑑みると、日本に適したケーリーを再設計し、Toyota Ceili Bandの特性を活かした音楽をつくっていくという、独自色を出していく方向にシフトしていく時が来たのではないかと考えています。

©︎Mizuho Fukahori


アイルランドの音楽やダンスの魅力の1つは日常と切り離されていないこと。普段着で飾らず、生活の中にそのまま組み込まれる自然さ。それが魅力の1つなのですが、それはすなわち、演奏者やダンサーとお客さんが切り離されていない文化、つまり、自分達が楽しむものということになります。そして、それが外から見た時に必ずしも誰もが楽しめるものとは限らないという話になってくる訳です。
このことを考える時、いつも頭に思い浮かぶのはアイルランド人のファッションなんですが、彼らの服装はお世辞にもファッショナブルとは言い難い。若い男の子はスポーツのユニフォームのレプリカTシャツにジーパンかスウェット、女の子はパーカー。それがちょっとおめかしという場になるといきなりタキシードにパーティドレスになります。間があんまり無いんですね。ダンスとその衣装にも似た特徴が表れていると思うのですが、普段着で自分達が楽しむ音楽やダンスが、コンペティションで突然派手なドレスになって、ダンス自体も極端なくらいコンペティション仕様になるといった具合です。これ自体がどうこう言うつもりはありませんが、こういう極端なスタイルが日本に合うとはちょっと思えません。日本ではもうちょっとナチュラルな形があり、普段着がもう少しお洒落だったり、そこから少しだけ着飾ったりとグラデーションのように選択肢があります。
日本でアイリッシュ音楽やダンスを楽しむ方々はそういう少しお洒落なものを好まれる方々が多いと思うのです。アイリッシュ・パブでビールを一杯飲むということだけを見てもそうです。安い居酒屋のビールではなく、わざわざ遠くのアイリッシュ・パブまで1パイント¥1000を超えるギネスを飲みに行く。日本とアイルランドでは同じものを消費していても全く文脈が違う。であれば、アイルランドのケーリーをそのまま日本に持ってきても受け入れられる層は限られてくるのではないでしょうか。
ステージと客席が完全に分かれるでもなく、観る人聴く人がいることを前提とせずに黙々と自分達が楽しむでもない、その間。アマチュアとして趣味で演奏し踊っている人がちょっと頑張って練習しお洒落してそれ程畏まらずに披露し、それをカジュアルに観て聴いて楽しむ人達が簡単なダンスの時間には自らも参加する。そんな新しいケーリーの形を今何となくぼんやりと思い描いています。ステップダンスを踊って下さったダンサーさん達のレベルの向上はそこに必ず重要になってくるピースの1つになることでしょう。

©︎Mizuho Fukahori

まだまだ新型コロナウィルスの影響から完全に解放された訳ではありませんし、ずっと休止せざるを得なかった定例ケーリーを来年の1月以降復活させられるのか、全くわかりませんが、10年を迎えたToyota Ceili Bandは、この先このバンドの独自色を積極的に出し、その延長線上にアイルランドとはまた違ったダンスの楽しみ方を提供していけるのではないか、そんな妄想を起こさせてくれた10周年記念公演でした。この先の10年もご愛顧、応援を宜しくお願いします。

Toyota Ceili Band 代表 豊田 耕三

©︎Mizuho Fukahori

 

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